ミューズは願いを叶えない マジですか? 眠気は一瞬で醒めたけれど、みぬきちゃんを見上げた俺の表情はともかく間抜けなものだったに違いなく、彼女も眉と瞳を中心に寄せた。 両手で拳を作ると、上下にぶんぶんと振り回す。 「だから、みぬき、王泥喜さんは口を開けば悪口ばっかり言ってるけど、牙琉検事の事好きなんだろうって思ってました。」 「そういうのはね、嫌よ嫌よも好きのうちって言うんだよ、みぬき。」 隣で電話をしていたとばかり思っていた成歩堂が横から茶々を入れてくるのは予想外。しかし、みぬきは、ぱぁと表情を変えた。 …ていうか、なんで笑顔になるんだ…。 「あ! それって、ツンデレって事ですよね。わぁ王泥喜さんてば、マニアック。」 「そうだね、マニアックだ。」 …ツンデレにマニアック…どちらも、俺に馴染みの薄い言葉なんだけど。 ウンザリしている気分とは裏腹に、マニアックを連呼し続ける仲良し親子に王泥喜のなけなしの体力はどんどんと吸い取られていく。反対に、彼等のHPは上がっていく一方のようだった。 萎れた前髪同様に、もう一度ひからびた蛙みたいに机につっぷした王泥喜は、もうこのまま寝てやろうと思い、瞼を閉じる。 途端浮かんでくるのは、至近距離の牙琉検事。バクバクと異常な鼓動を刻みだした心臓は、王泥喜に睡魔を近付けなかった。それでも顔を上げる気にはなれず、机に押し付けた頬が冷たくて心地よかった事もありそのままの体勢を維持する。 なので、成歩堂親子は、王泥喜が意識を飛ばしたのだと認識したようだった。王泥喜が相手をしない事を知れば、マニアックの連呼は終わりを告げ、彼等の会話が右耳から左耳に流れていく。 「そう言えば、みぬき。王泥喜くんが見張りをしてる部屋だけど。」そうそうと、思い出したように成歩堂が言う。 「意地悪な義お兄さんとも関係があるようだよ。」 「どういう事? パパ。」 「御剣と話をしててね、アイツが教えてくれたんだけど。部屋の所有者が経営している会社の弁護士をしてるそうだよ。」 「…ねぇ、パパ。御剣さんが知ってるって事は、事件の容疑者? でも、お部屋の持ち主は健全な経営をしてるって茜さんが言って…あ、検察側の証人って事?」 「弁護士が証人もなくはないだろうけど、残念ながら違うよ。彼が受け持ってる他の会社が贈収賄で立件されてるらしい。」 王泥喜の兎耳は実は前髪で、耳としての役割を果たしてはいなかったが、そこまで聞き及ぶとガバッと身体を起こした。 「それって、特捜部か特別刑事部の仕事じゃないですか!」 形相を変えた王泥喜に動じる様子もなく、「そうだよ」と成歩堂は返事をする。 狸寝入りがわかっていたのか、それともこの『話』を王泥喜の耳に入れたかったのか。恐らくは両方なのだろう。 そうして、吃驚眼をして自分を見つめる王泥喜に、成歩堂は口角を上げた。 「御剣管轄の特別刑事部持ち。但し、牙琉検事にも援助要請があったそうだよ。」 〜To Be Continued
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